録音を初めたきっかけ〜ワンポイント録音の魅力

今日はピノコアの小話シリーズとして、僕が録音を初めたきっかけとワンポイント録音の魅力についてゆっくり書きたいと思います。

僕の公式ホームページのプロフィールにもありますが、大学を卒業してしばらくはジャズピアニストとして活動していました。

先輩たちに参加してもらい、自身のトリオやカルテットを結成し、京阪神の範囲内まででひっそりと演奏活動をしていました。

ちなみにその頃の録音は残っていません。演奏するだけ。。。だったのです。このことに関しても後ほど想いを書きたいと思います。

その頃の懐かしい写真がでてきました。。。トップにあるのは僕が初めて結成したジャズカルテットです。

ところが、京阪神のジャズ系のライブハウスは基本的にはピアノの音や、調律などほとんど考えることなく、僕自身の理想のピアノ音という世界から程遠く。。。

その頃流行っていたサンプリング音源の中で特にピアノに力を入れたピアノ音源が発売され、すぐに購入、ある種完璧であるピアノの音そして、狂うことのないピッチの世界に閉じこもるようになりました。

今でもたまに話題に上ることがありますが、僕が録音エンジニアの師匠、五島昭彦氏と初めて会った時に僕は彼にこう言ったそうです。

「僕はもう生のピアノは弾かないんです」

それは師匠にとっては衝撃的な発言だったようで、今でも鮮明に覚えているとのこと。

ただ、その言葉の真意はすぐに伝わりました。

彼と出会い、そして様々な優秀な調律師に出会うまでは、「素晴らしいピアノ」に出会ったことがなかったのです。

各種ショールームや展示場に試奏しにいったりもしましたが、その「音」に対して、ことごとく絶望感に苛まれました。

どこのショールームにいったかは聞かないでくださいね(笑)

当時の僕を絶望に追い込むショールームですから、今は亡き場所ばかりです。


ピアノに絶望する中で見つけたのが電子音楽でした。

アナログモデリングシンセサイザーや、PCMサンプリング音源のもの、いろいろ組み合わせてのライブをいくつか企画していました。

これは先輩ミュージシャン清野拓巳さんとのデュオライブ!

当時ライブを見に来ていたお客さんが「夜恐怖で眠れませんでした」というほど強烈な原発風刺作品を並べました。

リハーサルは打ち込みデータを前にほのぼのした雰囲気の中進みました。

音源は僕のホームページミュージックワークスのページ一番下にあります。

※こちらの録音も五島昭彦氏によるもの。ラインを一切通さず全てオフラインでライブ会場でお客さんが耳にするそのままを捉えています。

確かこのライブを最後にほとんど自分で企画するコンサートはしなくなりました。


プロフィールにあるように、活動をやめていた時期にタイムマシンレコードと出会い、タイムマシンレコードのプロデュースでいくつかライブ活動を再開しました。

当時五島昭彦氏の録音に一番初めに感動したのはこの動画でした。

【タイムマシンレコード】 “pioneer” バートシーガー トリオ

のちに何かの賞を受賞したそうですが、この録音を聴いて、自分のピアノも録音してほしいと思うようになりました。


そして、縁あってコンサートを企画してもらいます。

その復活ライブの一回目はドラムレスのジャズピアノトリオ。

サキソフォーンとウッドベースとピアノでした。

それぞれ尊敬する先輩ミュージシャンとの共演でしたので、それはもう気合が入り、当日に40度の発熱という興奮状態の中でのライブでした。

そのライブで調律師の鈴木優子氏に出会い、彼女の調律に感動し、「ピアノ」という楽器の魅力に取り憑かれていきます。

この時は確か1907年製造のPLEYELで、オールドピアノらしく、ろうそく台が付いていてビンテージ感満載でした!

そのライブの音源が少しあります。

「服部洸太郎(pf)山本昌広(sax)萬恭隆(ba) 2012年©タイムマシンレコード」

さて、このライブの後五島昭彦氏にいろいろ質問をしました。

僕「いつもあなたが使っている米粒ほどのマイクよりもこちらの方が音が良いが、なぜ普段からこのマイクを使わないのか?」

※今ではわかることですが、このトリオで使ったマイクロフォンはDPA4006ステレオペア。

五島氏「ライブ会場によってはマイクの設営に制限がかかることがあったり、客席からの景観の問題も発生するため米粒マイクを軸に自由なセットができる場合のみこのマイクを使う」

と。

さらに加えて質問。

僕「一曲目(上記の音源はこのライブの一曲目だった)と、二曲目以降の録音の音源に音質の差が明らかにあるのだが、マイクを変更したり、システムの変更があったのでしょうか?」

五島氏「マイクとシステムは同じだが、一曲目にモニターしてマイクロフォンの位置を変えたほうが良いと思い、二曲目までの間に数十センチマイクを動かした」

数十センチ動かしたあとの音がこちら↓↓↓

「服部洸太郎(pf)山本昌広(sax)萬恭隆(ba) 2012年©タイムマシンレコード」

一曲目と比べても圧倒的な差がでています。

このDPA4006の音と、この数十センチ動かしたマイク位置による録音結果を受けてワンポイント録音という世界に興味を持ち始めました。

※もちろんこの間もピアノ工房アムズとの関係はとても重要なポイントになってきますが、これはまた別記事にて紹介したいと思います。


そこから、ある程度定期的にコンサートを企画してもらいます。

それと並行して、五島昭彦氏の仕事現場に同行し、配線の片付けや、機材の移動、運転、ミュージシャンの運搬などなどしながら、現場ごとにセッティングや編成ごとのマイク位置、録音結果を聞いたりと、実は結構しっかりと下積みさせてもらっています。

そして、次はドラムを加えての典型的なジャズスタイルのピアノトリオのライブ。

この時はマイクの名前も少しずつ覚えて、「絶対にDPA4006でお願いします。」と言っていたと思います。

その時も一曲目と、二曲目(本番一曲目を聴いて変更したマイク位置)では雲泥の差とも言える録音結果がでます。

まずは一曲目↓↓↓

「服部洸太郎(pf)池長一美(dr)萬恭隆(ba) 2013年©タイムマシンレコード」

そして、これを聴いてマイク位置を少し変えた結果がこちら↓↓↓

「服部洸太郎(pf)池長一美(dr)萬恭隆(ba) 2013年©タイムマシンレコード」

このライブももちろんですが、コンサート終了後に送られてくるファイルは一つだけ。

ワンポイント録音だからです。

当時からマスタリングはほぼ自分でやっていましたが、送られてくるファイルを編集で加工する必要は一切ない状態でした。

みなさんはこのジャズピアノトリオの録音をどう感じるでしょうか。

最近流行りのマルチトラックプラグインテンコ盛りの録音結果とはまた違った価値観があり、マルチトラックプラグインテンコ盛り派のミュージシャンや、それらに慣れている愛好家の方々はもしかすると違和感を感じるかもしれません。

ただ、僕にとってはこのワンポイント録音〜素の状態こそが、アーティストの音楽性を捉え、そしてその表現を詳細に解像してくれる技術であり、芸術を表現する上で最高の舞台であると感じました。

また、ワンポイント録音の素のままの技術というのは良くも悪くも全てをありのままに解像してくれます。

演奏技術の乏しいミュージシャンや表現力の欠如したミュージシャンなどはその欠如した部分もすべて露わになってしまうのです。

それらは裏を返せばコンプレッサーやイコライザ、リバーブなどである程度演奏技術や表現力の欠如は隠すことができます。

もちろんピッチが悪ければ音程だって簡単に変えられてしまう現代です。

なんだったらコンピューターが歌ってくれる現代です。

フォトショップ同様本気を出せばもう誰が演奏しているのかわからなくなるレベルまで加工できてしまう現代です。

なので、決して嘘がつけない録音方式であり、ハングリー精神旺盛なミュージシャンやアーティストにとって、嘘がつけないより高みの次元へと連れて行ってくれる録音技術だと確信しています。


自身が命がけで創った作品をこのような形で録っていってもらううちに、素晴らしい演奏をしても、それを残す術を持っていないと多くの人に伝えられない、後世に残せない、人類の叡智は途絶えてしまうと考えるようになりました。

モーツァルトの演奏を聴きたいと思いませんか?

多くの弟子を抱えたモーツァルトはどのような指導をしていたのでしょうか?

ベートーベンの振り弾きピアノ協奏曲はどんなサウンドだったでしょう?

パガニーニは本当にバイオリンが上手かったのでしょうか?(笑)

バッハはどのような息づかいやタッチで演奏していたのでしょうか?

ローマ帝国の酒場ではどのような歌が流行り、酒飲みはどんな歌で宴会をしていたのでしょうか?

今ピノコアのクラシック部門「堀 裕貴」は自身の演奏活動を軸にピアノ音楽教育にも大変力を入れています。

堀裕貴の演奏も最高水準で記録して、多くの人、そして多くの弟子に伝えること。

そして、アルゼンチンで本場のタンゴをマスターし、日本の美学とミックスさせた見事なアルゼンチン和タンゴを残すこと。

もちろん僕自身が定義するインプロビゼーションの美学。

そして、ピノコアに関わる多くのアーティストが人生をかけて、命を削り創り出していく多くの芸術作品を最高水準で録音していき、ワンポイント録音の醍醐味を全面的に押し出していくことこそ、後世の芸術、音楽の普及と不朽、人類の叡智の繁栄へ貢献できるものと信じています。

幾度かのきっかけがあり、僕自身が上記のように考えるようになり、誰にも負けないワンポイントを見つける決意ができたので録音を初めました。

三次元の座標は原点Oに対し、X軸Y軸Z軸で座標を決定することができます。

録音現場において、最小単位である、点をワンポイントと定義した時に一体どれほどの座標があるでしょうか?

天文学的な数字という言葉は好きではないですが、まさに天文学的な数のポイントが各現場に存在します。

また、アーティストの感情や表情、表現力によっても、音は変わります。そして、曲がります、直線ではないですし、また、湿度の変化、温度の変化、気圧、様々な外的要因により、音のスピードや質感も変化していきます。

そこに「想い」という非論理的な要素が乗り、まさに三次元を超越した世界へ行くことができる。

ワンポイント録音が時に現場よりも感情が揺れ動いたり、現場よりも音楽性が高かったりするのは次元を超越しているからと言えるかもしれません。

それがワンポイント録音の魅力だと考えています。

「五島昭彦氏と僕がピアニストという立場でご一緒した最後の録音〜金田式DC録音にて。2015年©タイムマシンレコード」


最後に録音中にマイクを動かしてどのように変わるかの例をご紹介したいと思います。

先日の大阪室内楽倶楽部のリハーサル録音の際、メインマイクはKM184でしたが、補助的立場ではありますが、QTC30の場所があまりにも悪いと録音中に移動させた音源が一つありました。(メインのKM184ではもちろんこのようなことはなく納品分はしっかり録音されています)

45秒あたりから、ゲインを少し持ち上げQTC30を数センチ前に、さらに高さを低くして、角度を10度ほど変えています。

するとどうでしょうか?↓↓↓

「大阪室内楽倶楽部     2017©大阪室内楽倶楽部 & Pinocoa」

ピノコアはこれからもワンポイント録音を研究し追求し続けます。


リンク

Pinocoa総合プロデューサー:Kotaro Hattori

届けます音のタイムマシン〜タイムマシンレコード:五島昭彦

室内楽をこよなく愛し、真髄を追求する:大阪室内楽倶楽部