岩佐 康彦トリオ

Pinocoaに録音技術を教授してくれた、タイムマシンレコードの新作のサンプル品が届きました。まずは録音エンジニアの師匠の収録した最新作であること、そして、私自身ジャズが好きで、昔よく聴いていた音楽であることもあり、慎重に試聴し、敬意を持ってレビューさせていただきたいと思う。

さらに、演奏家という目線、音楽プロデューサーという目線、録音する人という目線、様々な角度から触れてみたいと思う。


「ライク サムワン イン ラブ」岩佐康彦トリオ

試聴環境

DAC→ZOOM UAC2

モニター→KRK ROKIT 5

CDをトレイに入れて、再生。

次の瞬間、腰が抜けて後ろにあったマットレスに座り込む。

そう、あまりにも凄まじい音。

DC録音の真髄がそこにある。

この作品は非常に高い水準のジャズピアノトリオだということ、そしてなんといっても、金田式DC録音であるというのが最大の特徴である。

「無線と実験」2016年2,3月号に掲載されている、金田明彦氏が設計、自作した金田式バランス電流伝送DC録音システムである。

バランス電流出力型差動アンプ搭載のこの新設計のシステムに、ショップスの無指向性マイクロフォンMK2のマイクカプセルを使用。

世界の音楽史を創り上げてきたショップスのマイクロフォンと、音の神様である金田明彦氏が融合する。

当然ADCも金田式であり、金田氏オリジナル設計。

エンジニアの五島氏が、金田式を使い音楽を観る、そして、アナログ部を丁寧に金田式で育てられ、そっと不純物がない状態でADCされる。

無指向性マイクロフォンを使ったワンポイント録音でAB方式にてセッティング。


五島昭彦氏と私は、ピアニストとエンジニアの関係で、長い時間共に仕事をしてきた。

DC録音をピアニストとして体験したこともあります。

DC録音は、生き物であるといえます。

音が生きているのです。

ところで録音とはなんでしょうか?

空気の振動を記録するというのはすごく具体的な説明だと思います、しかし、DC録音は空気の振動を記録するわけではありません。

想いや感情、そして、音楽に宿った魂を観る。

そして、その物理次元を超越した存在と共存することにあると思います。

私自身ピアニストとしてDC録音してもらったときは、自分自身でも決して気づくことのできなかった想いや、愛、魂、感情を再生したときに感じたことが非常に驚きでしたし、自分の内面と対話する感覚です。

その段階ではすでに音楽家として音を観ることをやめていました。

それは、ただ漂う感覚であり、金田式というこの次元を超越した人類の叡智にただ酔いしれる時間でした。

本作品もまず感じたのはそういった、ミュージシャンの想いや感情がダイレクトに伝わって来る感覚でした。


さらに、ショップスのカプセルと本作品の相性が絶妙である。

ショップスといえば、弦楽器との相性はズバ抜けていると言われています。

例えば弦楽アンサンブル、弦楽器ソロなども含めて西洋の弦楽器の収録にはショップスは欠かせない存在です。

何がそんなに相性がいいのか?!

それは、音のザラザラ感。

弦楽器の松ヤニが擦れる音、微細な振動との相性が凄まじい。

ノコギリ波との相性というともう少し専門的に見えるでしょうか。

本作品でこのショップスのカプセルがどのような役割を果たしているのか?!

もちろんウッドベースのピッチカートによる弦の振動、そして、何よりもドラムセットの太鼓の張り具合。

このテンションが非常にノコギリ波的に伝わってきます。

さらにブラシの質感然り。

「テンションのかかりに対する抵抗」の音が全般、ショップスの特徴がしっかりと出ていました。

さらに、DC録音も空気の中にあるザラザラ感(これはノコギリ波とはまた別の感覚)を非常に微細に且つ繊細に感じ取ります。

このDC録音の中に眠る空気の中のザラザラ成分とショップスが捉えるノコギリ波の成分が見事に融合し、ライブハウスの現場では決して客席まで届くことのないテンション楽器の質感が表現されています。


ここまで主に録音について、音そのものについて書いてきましたが、作品自体の中身はどうか!?

メンバー

ピアノ:岩佐康彦

ベース:荒玉哲郎

ドラム:TARO OKAMOTO

これぞ伝統の和ジャズ!

と自身を持って言えるピアノトリオである。

ところで、日本人ジャズピアニストの中でもビバップスタイルのピアニストには2種類存在する。

一つ目はアメリカ人と同じになりたくて、同じになるように努力して、なにがなんだかわからなくなるタイプ。

二つ目は日本人のアイデンティティを承認しつつ他の文化と融合を果たし、日本人が演奏するビバップを確立するタイプ。

岩佐康彦氏は紛れもなく後者のタイプであり、ビバップスタイルと日本人のアイデンティティを見事に融合させた大吟醸なピアニストである。

戦後日本に入ってきたジャズの文化は日本で独自の進化を遂げたと言える。

そのタイム感はもとよりフレーズの処理、そしてアンサンブルの駆け引きに息遣い、そして何よりも心遣い、独特の和の雰囲気がそこにはある。

岩佐康彦氏のバッキングは非常に計算された美しい音圧でバランスを取っている。

当然目紛しくサウンドが変化していく、ジャズの演奏中、アプローチ一つでバッキングの圧力やフレージングも目紛しく変化していく。

それに合わせてボイシングの音圧を微妙に変えていき、フレーズとの調和を生み出している。

ベースの荒玉哲郎氏は過去にも何度かレビューをかかせてもらっているが、相変わらずの名ベーシストである。

彼の最大の特徴はその憑依性にある。

空間、そして音に対する感受性が非常に高く、それに反応し、即座に順応する能力が素晴らしい。

これはベーシストとして、そして、アンサンブルをする一人の演奏家としてみな欲しくても中々手に入らない超特殊能力だと言える。

ジャズの帝王マイルスデイビスも荒玉哲郎氏のようなミュージシャンばかりを自身のバンドに入れていたという。

時代が違っていれば荒玉哲郎氏はマイルスバンドにスカウトされていたかもしれない。そんなベーシストである。

ドラムのTARO OKAMOTO氏はニューヨークでの活動経験が非常に豊富で、生粋のジャズドラマーというべき存在。

DC録音の生命反応探知機能(勝手に命名)で命や温度がある音をピックアップされるのだが、TARO OKAMOTO氏のドラム、とりわけタムやスネアの部分に非常に強い生命力を感じることが多かった。

彼の特徴は打点の前に起こるストロークの段階ですでに強烈なリズムが存在していること。

このストロークの振れ幅の調整によって、音楽の推進力や煌めき、輝きなどを表現していく。

まるで「打点はあくまでおまけに過ぎないのだよ」とでも言われているかのよう。

そして、何よりもアンサンブルに対する柔軟な包容力には驚かされた。

生粋のジャズドラマーであり、非常に知的に構成されたドラムワークと柔軟な包容力が特徴だった。


CDデザインをしたのは、京都に住むアーティストNon Nakagawa氏。

ご覧の通り、彼女のデザインは線だけで、人物の特徴を見事に捉える絶妙な描写力を誇る。

また、これは別作品を個人的に拝見させてもらったときに思ったことだが、彼女の別作品はその配色バランスが特徴である。

見たこともない色を出す。

今回はこの線画のみでの参加ではあったが、別の機会に彼女の色使いをどこかで紹介できないかと思っています。

関西のジャズミュージシャンからもジャケットやプロフィール線画などなど引っ張りだこのNon Nakagawa氏。

今作品でもそのシンプルなデザイン性を見事に発揮しておられました。


3曲収録のミニアルバム

今回は3曲のみ収録のミニアルバムとなっているが、聞き応えはかなりある。

本作品、ミニアルバムということもあるかもしれないが、全部で5回通しで聴いた。

明日も聴くだろう。

そんな何度も何度もディスクが磨り減るまで聴きたくなるなんともジャズらしいジャズの名盤になっている。


金田式DC録音自体は雑誌や専門誌含めてそのレシピは完全公開されています。

多くのオーディオマニアやファンたちが挑戦しています。

しかし、五島昭彦氏は金田明彦氏の直系の愛弟子であり、且つ金田明彦氏の手がけた愛機を使用しています。

これはとても大きな要素であり、金田明彦氏の手がけたDCシステムは音楽の想いを記録することができます。

それを記録する方法は設計図には載っていません。

なぜそんなことができるのか??

それは金田明彦氏の音楽に対する深い深い愛情が生み出した奇跡なのだと言えるでしょう。

EQ、コンプ、リバーブ、そういった概念は金田式DC録音の世界には一切必要ありません。

必要なのは、ただそこに音楽があり、深い愛情で包まれた金田式で音楽作品を観察する。

そこにこれまた音楽に対する異常なほどの愛情を持った五島昭彦氏がモニターする。

「彼が聴いている音」それが私たちが聴く音です。

あとは、「私たちがただそこに在る」

本当にただ、それだけです。


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